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コーヒーの不思議
2002年4月29日
サンパウロ市在住 美代賢志

 日本に住んでいた時は何気なく飲んでいたアイスコーヒーだったが、ブラジルにはこれがない。それ以前に、缶コーヒーなんてものも無いのである。20世紀も終盤の1999年に、アメリカのメーカーらしきものが登場してアイスの缶コーヒーを大々的に宣伝していた。が、それもすでに姿を消した。飲んだ人によれば、「すばらしく不味かった」という。

 そして従来どおり、夏の盛り、「暑いなァ」なんて言いながら、バールでエスプレッソをすするのである。

 そんなお国柄で数年を過ごした後の2000年、たまたま日本で数ヵ月を過ごした。もともとコーヒー嫌いの私であったが、このときにはコーヒー党に転向していた。それもホット派。その時に知り合った日本在住のブラジル人たちは、けっこう普通に缶コーヒーを飲んでいた。しかも彼らが夏に飲んでいる缶コーヒーはアイスだと知ったのはその盛りが過ぎてからで、「あげる」と言われて受け取った缶コーヒーが、冷たかったからである。

「冷たいコーヒーって、変じゃない? それに缶コーヒーってのもさ」

「そうかな。馴れちゃったし、ブラジルにあっても良いかとも思うよ」

 これは何気ない会話であったが、結構、示唆に富むものでもあった。

 ブラジル人にとってカフェー(Café=コーヒーのこと)は、特別な思い入れのある飲み物である。例えば日本のお年寄りにとっての緑茶のような。

 朝、目が覚めればカフェー。街角で偶然、友人と会うとカフェー。仕事中、パソコンがフリーズして再起動になれば仕事を放棄してカフェー! 食後、一息つくのにだってカフェーである。そもそもブラジルの一定数以上の社員を抱える企業には、職場にカフェー(というか飲料)のポットを備え付けることが法律で義務付けられている。当然ながら、そのカフェーはホットである。

 食文化というものは元来、かなり保守的なものとされている。その壁をこうも簡単に破れるものであろうか。

 現在の私の友人たち、それは日系も非日系も含めてであるが、日本に住んだ経験のある人は皆、「日本で飲んだ冷たいカフェーは許せた」という。それは「夏になると自販機から、ホットがなくなるからね。味はまずまず。とにかくコーヒーがない生活よりはましだったからね」という消極的理由。まあ、20以上あるランクのうちブラジルで流通しているのは下位3ランク程度だ。つまり品質のよいコーヒー豆はすべて海外、とりわけ日本に輸出されてしまう。だから、日本のコーヒーが美味しいのは当然か。

 ま、それでもブラジルのコーヒーだって美味しいのであるが…。これはブラジルの風土に適合した技術で、品質の悪さをカバーしているのかもしれない。

 写真は、サントス港に隣接する旧コーヒー取引所内にあるカフェテリア。生豆から焙煎豆、コーヒー関連製品の販売も行っている。手前の袋には、「ミナス州南部」や「ミナス州乾燥地帯」、「モジアナ線高地」、「有機栽培」などと産地や銘柄を記した札がある。これらはいずれも、輸出されればすべて「サントス」の銘柄になってしまう。もちろん、私が見たところで豆の違いはぜんぜん分からなかったのではあるが。

サントス港の旧コーヒー取引所内のカフェー

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