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ブラジル経済のからくり
2002年7月11日
サンパウロ市在住 美代賢志

 ブラジルのカントリー・リスクは現在、経済危機ですったもんだのアルゼンチンに次ぐ、堂々のワースト2である。ところが、経済データを比較して見ると、素人目にはそれほど悪くない国に見える。ということで国内外では、先行き不透明な大統領選が主な原因だと分析している。何しろ、セクションの長―というのは大統領でも大臣でも、とにかく何でも良いのだが―が変わるとごっそり人事が変わり、政策自体も大幅な、時には180度の変更が加えられるのである。政変で失職の可能性があるコバンザメ役人にとって今年は、まさに最後の稼ぎ時かもしれないのである。それに加えて公社票を集めるのため、現政権による公共料金の値上げ許可も大盤振る舞い。

 そこで6月のインフレは、拡大消費者物価指数(対象品目を通常よりも多くした消費者物価指数で、政府公式の数字になります)によれば0.42%であった。ちなみに5月は0.21%。2001年7月から02年6月末でみれば7.66%、02年上半期では2.94%である。

 6月はガス料金の9%弱に始まり、ガソリン価格や電力料金、バス料金、電話料金などの公共料金が、6月は大幅な値上がりを記録した。そういう目で見れば、

「マジでたったの0.42%??」

 というのが実感である。

 私のお気に入りのパン屋だって、フランスパンを25%、1個あたり5センターボ(約2円50銭)も値上げした。これは、アルゼンチンの経済危機によってアルゼンチンからの輸入小麦が値上がりしたからである。

 そう思っていると、この数字は「平均的ブラジル人の生活を反映したものではない」ということが分かってきた。つまり生活費(というか拡大消費者物価指数)におけるこうした料金の占める割合が、ものすごく小さいのである。そりゃ、金持ちはバスには絶対乗らないだろう。車の燃料代といっても、普段の贅沢からすれば小さなもの。外食が多ければ、こちらはガス料金など比べ物にならないぐらい高いのだから、気にもならないだろう。第一、「一戸建て」住まいなら週末は炭火でシュラスコである。ガスの使用量はさらに少なくなる。でも、平均的な収入の家庭(サンパウロ市で約800レアル、およそ4万円)では、ガス代と水道代、アパートの共益費を払えば残りは恐らく食べるのが精一杯である。そういう家庭におけるガス料金の9%値上げというのは、もっと大きく響いてくる。実際、中産階級の下というか低所得者層(それでも平均給与の倍に当たる1600レアル以下)を対象にした指数(国内消費者物価指数)では、この数字は0・61%と大きくなるのである。

 もうひとつ、公式の失業率が驚くほど低い。と、思っていたら、この定義がものすごい。すでに正規労働者として働いた経験のある者で、過去30日以内に失職し、かつ過去7日以内に就職活動を行った(つまり職安等へ行った)者、である。30日以上の失業している人は、失業じゃないのである。じゃぁ何だと言いたくなるが、これは失業手当のとの兼ね合いかもしれない。私の住んでいるアパートの近くに職安があるが、毎朝、5時から長蛇の列である。その列に週に1度、4週間も並ぶほど根性のある人がどれだけいるだろうか。現実的な数字は、政府のものではなく労組系の統計かもしれない。こちらは、過去30日以内に就職活動を行った人であり、17%から18%といったところである。もちろんこれも、過去に正規労働者として働いた経験がなければならない。

 だから、他州から流れてくる路上生活者(これをブラジルでは国内移民と呼びます)は、失業者ですらないのである。こうした算出方法は、IMFとの関係でブラジルに対して、非常に有利に働いているはずである。

 お隣のアルゼンチンはもっと大変だそうだが、ブラジル経済もこれからしばらく、大統領の1次選挙(10月6日)まで、場合によっては新大統領の就任(2003年1月1日)まで、流動的な経済状態が続きそうだ。

 とはいえ、こうした経済状況にあっても日々、少なくとも私は(そして多くのブラジル人が)ブラジルを好きで、しかも楽しく過ごしているということも事実である。

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