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フルサイズ撮像素子を絶賛する

2003年1月13日

サンパウロ在住 美代賢志

 今回は、ブラジルとはほとんど関係のないカメラの話である。しかも、カメラに詳しくない方には意味不明の文章が、延々と続く。ごめんなさい。

 ちょうど日本がバブルを謳歌していた頃だったか、なぜか「○○的」という表現が気になっていたことがある。「的というのはどういうことか? それに準ずる、似るということか? では○○的という時、それは実際には○○ではないということだ。なぜその本質を見抜き、直截な表現をしない? ○○的など言うのは、まるでまがい物文化ではないか」。これがその当時、グータラ学生だったころの気分。

 これが再び気になりだしたのは、デジカメの描写に関して、ごく最近になって(あくまでも推察であるが)疑問が氷解したことによる。

 実は所有するコンパクトカメラ様態のデジカメで撮影した時、銀塩フィルム以上にブレるのである。

 それは、シャッタースピードが1/60以下の動体撮影。これは以前から気になっていたが、昨年のカーニバル撮影で我慢の限界を超えた。その理由が良く分からなかったのだが、ずっとCCDという撮像素子とレンズシャッターの組み合わせによるものとばかり思っていた。

 そしてキヤノンのEOS-1Dsを見た時、ハタと閃いた。撮像素子の大きさが原因ではないか。

 私の所有するデジカメのレンズは、6.5mm−19.5mm(35mmmフィルムレンズ換算で、35mm-105mm相当)である。ここで注意しなければならないのは、相当というのはあくまで画角(写真に写る広さ)のことだということ。描写自体は6.5mm−19.5mmのレンズと同じだということである。

 つまり、35mm相当というのは、35mmフィルムの立場からすれば、6.5mmのレンズで撮影した画像の中央部を35mm相当の画角になるように切り取ったものと等価である。撮影距離が同じなのだから、撮影された写真の遠近感は、フィルムもデジタルも同じ(になるはず)。ところが、カメラブレという観点では、デジカメは6.5mmレンズによって投影された画角の一部(35mmから見れば)を切り取る(拡大する)ために、わずかなブレまで拡大されるのである(たぶん)。従来は、撮像素子によって得られるデジタル映像は銀塩フィルムよりもコントラストが低いため、とくにスローシンクロ撮影などでブレ効果が強調されるのだと考えていた。

 これは、思わぬ落とし穴であった。以前は、「デジカメは撮像素子の大きさがバラバラなのだから、せめてレンズは35mm相当ですべてを表記したらどうか」などと考えていた。しかしこれは、あくまで35mm「的」なのであって、映像表現という観点から見れば、まったく別物。

 私は、蒙を啓かれた。

 もっとも、正確な焦点距離を表記したところで、デジカメは撮像素子の大きさがコロコロ変化するのだから、始末に終えない。以上が、私のデジカメ熱が急速に冷めた理由。そこで現在、今後の業界の動向として熱い視線を向けているのが、EOS-1Ds。一眼レフのこうしたデジカメは、フィルムカメラにない優れた点があるのも見逃せない。それは、視野率が100%で、撮影した映像も100%利用できるという点。フィルムの場合、視野率100%で完璧に撮影したとしても、ネガキャリアやスライドマウントでケラレてしまう。ファインダーで切り取った映像をそのまま100%利用(パソコンへの取り込みやプリント)するには、35mm専用のフィルムスキャナーでは不可能なのだ。映像表現の道具として考えた場合、私にはそれ以外のサイズの撮像素子は考えられない。だからデジカメの35mmフィルムで○○mm相当などという「的な」表現から脱したフルサイズの撮像素子は、諸手を挙げて賞賛したい(該当のカメラを賞賛するという意味ではありません)。という訳で、早く値崩れする日が待ち遠しい…(おいおい)。

 だいたい、デジカメの分野というのはカメラメーカーも含めてカメラ方面の素人が多すぎるのではないか? あるパソコン情報系のポータルサイトでは、一眼レフと一眼式の区別すらしていない。すべてが一眼レフ。撮像素子に結像した映像を電子式ビューファインダーで覗くタイプのカメラは、一眼式であっても一眼レフではない。レフとはレフレックス、反射光学系のファインダーを採用していることを指す。撮像素子までの光軸にファインダーに導光するための反射光学ブロック(つまりは鏡)が介入しておらず、撮像素子に結像した映像が光学的には非連続な形で電子式ビューファインダーで映し出されるカメラ。これでなぜ一眼「レフ」なのか?

 あるメーカーのサイトでは、ビューファインダーを「レンジファインダー」と表現している。私はうっかり、本当にレンジファインダーが内蔵されているのだと勘違いして、メーカーに詳細を問い合わせたほどである。何しろ、ブラジル住まいなのだから現物に触れるのは不可能。どうしてもサイトなどの情報に頼らざるを得ない。

 「ピントのずれはファインダには表示されません(ママ)」。かつ「レンジファインダーでは常にピントが合っている状態ですので、マニュアルフォーカスをご利用の際には、液晶で行なって頂きます(ママ)」というのが返答であった。この技術者はレンジファインダー、つまり英語の「range finder」が日本語で何という意味か知らないのは明らか。range(距離)をfind(測定)する装置がレンジファインダー、つまり距離計のはず。未知の単語に接した場合は辞書を引けと、小学生の高学年ぐらいで習わなかったか?(もっとも、問い合わせの翌日には返事を頂き、メーカーの迅速な対応には感動したのであるが)

 いわゆるライカのようなカメラをレンジファインダーカメラと呼ぶのは、それまで外付けだった距離計をカメラと一体化したため。これ以前の小型カメラは、カメラとは別の単体距離計で距離を測るか、目測するしかなかった。それはそもそも、こうした小型カメラの原点となったバルナック型ライカの形態を知っていれば明らかなはず。カメラメーカーの光学技術者で、バルナック型ライカを知らない人はいないだろう。デジタル方面の技術者だとぬかそうが、この程度のカメラの知識は必要なはず。得られる映像はデジタルだろうが、作っている商品は「カメラ」なのだから。それともデジカメは、技術者サイドにおいてすらカメラ以下の玩具なのか?

1932年製の現役カメラ

 これは私の所有するバルナック型ライカ。向かって左側がレンジファインダー、右側が50mm相当のビューファインダーである。当然、レンジファインダー部分を覗いても、どの範囲が写るかを知るのは不可能。何しろ、レンジファインダーの視野は丸いのだから。ちなみに測距の原理は、三角測量である。だからカメラの前面には、距離計用に2つ、ビューファインダーの対物レンズ用に1つと、3つの窓がある。

 上辺だけで盛り上がったバブルも弾けたことだし、そろそろ本質を伝えないか? ブラジルに関していえば、それが当サイトの、目指すところでもある。そして私自身が、ブラジルの専門バカにならないようにとの自戒を込めて、今回のようなページをアップした。もちろん、単なるバカはもっといけない。「むしろお前はそちらだな」というのが、私に対する周囲の意見ではある。とほほ。

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