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ポルトガルの海

2003年2月3日

サンパウロ在住 美代賢志

 もともとが怠惰な生活であったが、名実ともにブラブラ人間になって、ついに1年である。

 早かった、と言えばそうかもしれない。しかしそれでも、1年は1年。それだけのオマンマも食べなければならない。そして今、こうして生きていられるのは、読者の皆様のお陰。今後もよろしくお願いいたします。

 さて、1年前のちょうどブラブラ生活に突入した時であったが、偶然のことでポルトガルの大詩人フェルナンド・ペッソーア(Fernando Pessoa)の詩に出会い、なんとも言えない感銘を受けた。

 もっとも、日本語に対応する単語がないというのもあるが、私の技量と詩才では、どうやっても原文の味を、日本語で再現することは不可能なようである。それでも、気持ちを新たにするという意味合いを込めて、意味の書き出し程度の日本語訳をしてみた。格調を伴って歯切れ良く韻の美しい原文には及ばないが、読者の参考になればと思う。

 なぁんてカッコイイことを書いたところで、さすがに大詩人らしく、日本では訳本が、ちゃんと出版されているようだ。プロの翻訳家の手による日本語訳は、きっと素晴らしいだろう。ぜひ読んでみたいものである。

 

MAR PORTUGUÊS  

 Fernando Pessoa

 

Ó mar salgado, quanto do teu sal

São lágrimas de Portugal!

Por te cruzarmos, quantas mães choraram,

Quantos filhos em vão rezaram!

Quantas noivas ficaram por casar

Para que fosses nosso, ó mar!

 

Valeu a pena? Tudo vale a pena

Se a alma não é pequena.

Quem quer passar além do Bojador

Tem que passar além da dor.

Deus ao mar o perigo e o abismo deu,

Mas nele é que espelhou o céu. 

 

ポルトガルの海

フェルナンド・ペッソーア 作

 

塩辛い海よ、お前のその塩は

ポルトガルの涙なのだ!

お前の波頭を越え行く時、幾人の母が涙し、

幾人の子供が、むなしい祈りを捧げたことだろう!

幾人の許婚が、結婚せずに終わったことか

海よ! お前が我らのものだというために。

 

意義あることだったか? すべて意義あることだ

その志が矮小なものでないならば。

ボジャドール岬の先を越えて行こうと志すものは

痛みを超えてゆかねばならぬ。

神は海に、危険と深淵を与えた

しかしその海にこそ、神は無限に輝く天空を映し出されたのである。

 この中でも好きなのは、「Valeu a pena? Tudo vale a pena  Se a alma não é pequena.」という一節。実はこれ、ブラジル人も好んで使う表現である。例えば若者などは、「ありがとう(Obrigado !)」と言う代わりに、「Valeu !」と言ったりする。「(私のためにあなたは)役立った」ということだが、つまりは「助かったぜ!」というニュアンスである。

 最後のcéuというのは、写実的には「空(そら)」のこと。しかしここでは、むしろ「天国」というもう一方の意味から転化して、「輝かしく広がる未来」、「無限の可能性」といったニュアンス。ピッタリくる日本語が無くて悩んだ箇所である。(翻訳本では何と訳されているのか、ちょっと気になってます)

 この詩が好きなのは、その情景が移民の姿や心情にダブるというのもある。そして貴卑談語も、斯くありたいと思う。

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