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風評か確信犯か

2003年6月27日

サンパウロ在住 美代賢志

前回のコラムに関係した話。

 BSE(牛海綿状脳症)、つまり狂牛病の症例が日本で確認された当時、ブラジルでもこれと無関係ではないと思える事件があった。

 「日本中が大騒ぎ」と日本のマスコミが大騒ぎしているころ、ブラジルでは日本から輸入された「カレールー」が大きく値下がりしていたのである。

「やっぱり、ブラジルでも消費が落ち込むのを見込んで値下げしたか」

 そう思える人は幸せな人生を送れる、と思う。おめでとう。

 日本の(?)報道に煽られただけで、ブラジルのカレールーの消費が落ち込むとは思えない。というか、こんなもの、例え消費が落ち込んだとしてもしばらく寝かせておけば良いのである。だいたい、もともとの消費量自体、それほど多くはないだろう。さらに、安売りされているのはすでに小売店が購入した分である。日本で船積みされてブラジルに到着するまでに、3ヵ月かかるのだから。「赤字覚悟で(何しろ価格が日本国内と変わらぬのだ)、今、どうしても売りたい」という商品でもあるまい。

 この値下げを私は、別のメッセージとして受け取った。つまり、カレールーの「だしのもと」として使われている牛肉(なんだか牛骨なんだか)って、かなりいい加減な仕入れをしてるんじゃないの?ということである。もう、安けりゃOKって感じの安コネクション的発想で、「どこ産だろうと表記に関係ないんで、安いのください。それが病死牛だろうが屠殺牛だろうがOKっすよ。なにしろこれは、材料じゃなく原料なんっスからね」という具合に。そこで、問題が表面化してヤバイ商品を回収しなければならないという事態が生じたときのために、その回収コストを抑える目的で該当商品を外国市場へ格安で放出したのではあるまいか? というか、回収することを考えれば、金でくるんで国外の流通経路に乗せたとしても安いものだ(この部分の計算は根拠なし)。ただしそのためには、外国の問屋か小売店が、短期決戦でそれを売りさばかなければならない。回収騒ぎになる前に…。小売店にしても、将来、金でくるまれた(かどうかは知らないが)商品が到着するのだから、今の在庫を安売りしても大丈夫。あるいはメーカーが、「ブラジルからすごい数の注文が入ってまして、すべて輸出しました。回収はできません」などと言い逃れするための先行安売りか?

 ま、私とて、「うひゃー、安いっす!」などと騒いで当時、大量に買いだめさせていただいたのだから文句は言えないな。いや、買ったから文句も言えるというものか。

 などと思い出しながら該当メーカーのサイトを見てみると…、安全性に関する項目が設けられており、丁寧な説明が(といっても、納入業者から書類を取ったというだけの無責任なものであるが)あった。紙と判子(あるいはサイン)が重要なのではなく、紙と判子の裏づけを取る作業が重要であると思うのだが、まぁ、そうした企業の姿勢自体は評価しよう。私の杞憂であったのか。ただ、この会社だって社員の採用では書類選考に面接を重ねるはず。なのに自社の商品は書類審査で終わりというのはどういうことだ? え、面接を重ねて吟味の上で採用したうちの社員に限って…だって? おいおい、止してくれよ(笑)。

 自宅で買いだめしてある最新パッケージのルーを見てみる。「牛エキス不使用」と明記されているのは良いとしても、原材料の「酵母エキス」というのは、何だ? で記載から読み取れることは、どこかの時点で、ウシガラからトリガラに変更されたのであろう。ちなみに大阪メーカーの方はBSEに関する記載が一切ない(パッケージにもサイトにも)。これは「もともと、そんなゲテモンは使うておまへん」という自信の表れなのか? それとも臭い物に蓋をしているということなのか? ま、普通に考えれば前者であろうな。でも、サイトとパッケージで説明している方が、誠実感は感じる。その辺は企業の姿勢の違いなのだろう。

 それにしても好物のカレーを食べる時、こんなことを思い煩わなければならないというのは、実に悲しいことと言わねばなるまい。ちなみにわが家のカレーは、ブラ妻の好みにより4cm角ぐらいのトロトロ牛肉やらジャガイモがゴロゴロである。シーフードカレーへの道のりは、遠いのだ…。

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