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興味本位の皇室取材(2)

2003年8月13日

サンパウロ在住 美代賢志

 内親王のブラジル公式訪問は続く。

 リオでは宮内庁の方から、またも気になる談話が出た。

「夕食後に隣室のフェイジョアーダの鍋をご覧になり、これが有名なフェイジョアーダですか、とおっしゃられました。しかし、お召し上がりにはなられませんでした」

 この時もやはり、質問した。

「お召し上がりになられなかった理由は、フェイジョアーダがもともと奴隷料理だったからでしょうか。フェイジョアーダの香りについてでも、何かお話になられなかったのですか。夕食後にお見せになったのは、意図的にですか」

 ブラジルに住むものとして、ブラジルを好きなものとして絶対に知りたい。なぜ、ブラジル料理の代表選手をお召し上がりになられないのだろう。旅の楽しみは、郷土料理を味わうことでもあると思うのだが。

 この時も記者クラブの方々に、「所詮は食べなかったんだから、イチイチそんなこと聞くな。感想ったって、余計なことを言うわけ無いだろ、このブラ公!」みたいな顔をされた。敵意丸出し。そして「お言葉と予定原稿の相違点は…」などと、皆様は上品なやりとりを展開なさるのであった。そんなもの、1万円そこそこのテープレコーダーで解決できないのか? ブリーフィングでなければ知りえないことを、なぜ探求しないのだろう。

 そして皆様の記事には、そのお言葉など全く掲載されないのである。扱いも数行。長い記事が切り詰められて、記者クラブの方々は頭に来ないのだろうか。あるいは削られたのは自分の原稿が面白くなかったからだと、恥ずかしく思わないのだろうか。自分が取材したことをより多くの人に伝えたいという、ジャーナリストの本能はないのだろうか。

 そして我々ブラ公は、宮内庁記者クラブの皆様に嫌われたのであろう。98年の両陛下ブラジル訪問に際して大使館のH参事官から、「ブリーフィングは記者クラブの方のみを対象とします」言われた。ブラジル側メディアはネタがもらえない。日本の新聞は数行の扱い。外交カードとして見れば、ずいぶんコストパフォーマンスが悪い。

 それで最終的には、「質問は行わないこと」と、出席が認められた。でも「通訳は付けない」と言うのだから、純ブラジルのメディアは完全に締め出し。さすがに頭にきて、俺が通訳するから行こう、とブラジル人記者を呼んで一緒に入った。

 こうなると個人的にも嫌われ者である。ブリーフィングルームに入った途端、記者クラブの皆様に睨まれた。それから、H参事官にも。宮内庁の方だけは気にも留めなかった様子だったのが、救いであった。

 今思えばブリーフィングルームは、「夷狄立入禁止」の攘夷の部屋だったのかも知れない。言ってくれれば、一応の納得はできるのに。でもその場所は在外公館内ではなかったので、ブラジル法が適用されるけど(ブラジルでは憲法で、人種差別的行為を禁じています)。

 それでは当初入室を断られた我々移民も、彼らにとっては夷狄なのだろうか?

 私は、いろいろなことに興味が次々と湧いて来て止まらないタチである。そして自分の得た話題を、多くの人に知ってもらいたい。自慢もしたい。それでなくてもお喋りが大好きだ。だからずっと、興味本位で生きていたい。瞠目しながら興味本位で皇室を取材したブラジル各メディアの方が、日本の新聞報道よりもずっと良かった。そう感じたのは、ブラ公の当事者だけではなかったと思う。

 たしかに新聞には、私の大先輩の言葉通り、「興味本位じゃいけない」という体面のようなものがあるかもしれない。でも、そうすると日本の新聞にとっては「皇室の記事を多角的に取り上げるのは体面上、良くない」ことなのだろうか? あるいは、「国民は皇室には無関心」ということだろうか。それならなぜ、今まで読者が興味を抱かせるような切り口で書いて来なかったのだろう。それとも皇室の活動は日本の新聞社にとって、読者に興味をもたれては困るものなのだろうか。

老人養護施設「憩いの園」を訪問された内親王

 

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