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お盆になると思い出す

2003年11月2日

サンパウロ在住 美代賢志

 2001年に今はなきJapanBrasil.comで掲載したコラムを、一部加筆修正の上、再掲した。

 知り合いの戦後移民に…その人はもう還暦を過ぎているのだが、「俺が死んだら灰にして、それを太平洋に撒いてくれ」という人がいる。そうやって海流に乗り故郷、日本に帰り着く気だという。毎年11月2日、お盆になるとこの話を思い出す。

 口を開けば「日本の文化ってぇのは…」と口うるさいおじさん(てぇかお爺さん)で、そうやって日本の習慣や考え方を頑なに守ろうとすることが、彼のアイデンティティーの確認作業でもある。もっとも傍目にはこの人、思考から行動まですっかりブラジル人化している。それはもちろん、本人も承知の上だろうが。

 そしてこの話は還暦を過ぎた現在、彼にとっての一大関心事であるからして、酔っ払うといつも話題に上がる。そして私の返事は決まっている。

「今まで散々人に世話を焼かせて、死んでからも手間がかかるっちゅうのはどうかな。いつも和食ばっかりで魚を食べとるやろ。死んだら魚に恩返しをしたらどうや。チベットの鳥葬やないけど、ブラジルには丁度ピラニアがおる。魚葬がエエで。これやと手間もかからんし」

 ここで先のおじさんは、それやったら日本に帰られへんやろ!と言って、眼に涙を浮かべて憤慨するのだ。「ブラジルの土になったる!」と言って故国を後にした人でも、それほど望郷の念は強い。私だったらどうだろう。

十字架に混じって、こういう日本式の墓石も散見される

 お盆の日、墓地には多くの人がロウソクに火を灯しに訪れる。墓地の講堂では説教があったりする。日本式の墓石も、ところどころに見ることができる。裏には生年月日だけでなく、出身県が必ずといってよいほど記されている。写真には「香川県大川郡志度町」とある。

 もっとも、初期の移民の場合は墓のあるほうが珍しいという。

 ずっと時代が下ってお参りする家族がカトリック一色になった時、この日本式墓石はどのような位置付けになるのであろうか。あるいは日本式という一点の楔によって仏教信仰が続くのであろうか。誰もが日本語を読めなくなった時、墓碑に刻まれた日本語に子孫は、どのような意味を見出すのであろうか。

 ブラジルという国が、壮大な実験場であると言われる所以である。

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