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水不足はどこへいった?

2004年1月5日

サンパウロ在住 美代賢志

 …と、ウカウカしているうちに、新年になっていた。

 全世界の読者の皆様、明けましておめでとうございました。今年もよろしくお付き合いください。

 いつものことながら、この年末年始はブラ妻の実家で過ごした。サンパウロ市から約600km、インターネットカフェなどあるはずもなく、まさに陸の孤島である。ブラ妻の弟もコンピュータ関係の仕事をしているが、インターネットは会社でしか行わない(信じられないことに、ホント)。例年のことながら読書か、農場での写真撮影、井戸端会議への参加ぐらいしかやることがない。今年は本を持参し忘れ、陸の孤島も曇り空とあって写真撮影もままならないという状況。遠島を言い渡された冤罪被害者の気分で日々を過ごした。

 それでもテレビやラジオはあるわけで。テレビニュースを見ていると、サンパウロやリオはこの年末年始、雨続きの寒空であるという。気が付くと、2003年末に話題となった水不足は、どこかへ吹き飛んでしまったようである。サンパウロ市近郊にある貯水湖の水位が、降雨に応じて上昇するのは森林の保水能力がないからだろうと思う。もちろん、日照りが続くとすぐに水不足となるのも同様の理由ではないか。根本的な解決策は「節水」や「給水制限」などではなく、「森林の再生」じゃないか? もし森林が再生できないほど都市化が進んでいるなら、「都市計画としての緑化と保水能力の向上」を図るべきと思うのだが。

 2001年には同じく水不足から、発電ダムの貯水量が激減、電力不足に至ったのは記憶に新しい。その後遺症は「電力危機対策税」として現在にまで庶民に負担を強いている。

 さて。これは以前のサイトで書いたことながら、サンパウロ、とりわけ私の生活圏であるリベルダーデ区などの地域では、「夏(=雨季)と言えば停電」である。夕方、雷がゴロゴロと言い出すと何はさておき、作業ファイルの保存。以前在籍した日本語新聞社では、「節電しなくてもいいんじゃないか?」というほど、頻繁に停電した。

 ブラジルに来たころの1994年当時の日本語新聞は、信じられないことに原稿は手書きだった。94年と言えば、ウィンドウズ95発売のわずか1年前のことなのだが。もっとも、停電すればパソコンはお手上げながら、手書きだった当時はロウソクを灯し、ボールペンを手に原稿用紙と向かい合った。しかし、あまりにも頻繁に停電すると、編集部備え付けのロウソクも底をつく。

「おい、美代君、ちょっとそこらへ行ってロウソク買ってきて」

 新米の使いっ走りは、洋の東西を問わない。すぐ電力が復帰するだろうとの予想に反して、1時間以上も停電が続き、原稿を書き上げて暇にしていた私に声がかかった。正確には、新米の私にはこの日、書くべき原稿すらなかったのであるが…。

 新聞社はもともと沼地に建てられたというだけあって、付近の道路はヒザぐらいまでの水浸しである。ボートがあるならともかくも、徒歩なら移動は制限され、購入できる商店も限られる。この時は、新聞社周辺の雑貨店は、どの店も売り切れだという。最後に、諦め半分で新聞社のすぐ横のお菓子屋へ立ち寄った。雑貨店も兼ねているのだ。

「バァちゃん、ロウソクない?」

「ぜぇんぶ、売り切れたよ」

 そうだろな。普通、停電になりゃ、すぐに買うわいな。そう思って何気なく上のほうの棚に目をやると…。何やらぶっといロウソクが1本。直径が5cmはある。

「なんや、あるやんか。あのぶっといのを頂戴!」

「あ、これは××だよ」

 当時の私のポルトガル語能力は、大半の読者の皆様同様、ほとんどゼロだった。よく聞き取れなかった、というより、聞き取れても何のことやら分からなかった。「はぁ?」という顔をしたからか、おばあちゃんは別の説明を始めた。その話もまったくわからなかったのだが、なにやら7日間も燃えるらしいことだけは分かった。

「す、すごい。ぶっといだけに、7日も燃えるんか。話半分でも3日半。最高や。それだけに高価で、売れ残ったんやな。いただきまっせ」

 できる記者というのは、こういう感覚も鋭いのだなぁ…。早速編集部に帰り、このロウソクに出会ったイキサツを、得々と自慢したのであった。そしてぶっといロウソクを、製作部のAさんの机に設置した。

「7日も燃えるというシロモノらしいですけど、悠長にやらんとチャチャっと仕上げちゃいましょう!」

「おお、すごいな。それはご苦労だった!」

 Aさん、それにAさんの下で働く戦前移民のTさんは満面の笑顔である。感謝されるのは、いつでも嬉しいもの。そして、Aさんに借りたライターで、ロウソクに火を点けた。ロウソクの太さと比較して、芯が糸のように細いことには、何の疑問ももたずに。

「は…。あ、ありゃりゃ…」

 果たして、ロウソクの炎はライターの炎よりもはるかに小さいのだった。編集部は大爆笑。Tさんによればこのロウソク、故人の埋葬から初七日のミサを行うまでの間、燃やしつづけるという用途に使われるものだとか。それだけにあまりにも暗く、明かりとしては使い物にならない。

「くそう。恥をかかせやがって。このイカサマのロウソク野郎!」

 八つ当たり状態でロウソクの上面を2カ所グリグリえぐり、原稿用紙を棒状にねじって突き刺した。こうなれば、なんとしても景気良く燃えてくれなければ。何しろロウはたんまりあるのだから。その成果はすさまじく、今度は煌々と編集部を照らした。7日で消費するロウを、わずか3時間で消費したほど。

 水不足に電力不足、そして停電。まったく、ブラジルの夏の思い出にはろくなものがない。

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