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文協会長選のおもひで

2005年5月10日

サンパウロ在住 美代賢志

 さて、個人的には何の関係も無かった文協会長選…のはずだったのだけど、そんなこと無かった。

 1次投票の時期はちょうど季節の変わり目で、ハチ娘が風邪をひいて看病に追われていた。そこへ投票日の午後11時過ぎ、Aおばさんが突然、わが家のインターホンを鳴らしてやってきた。「今、息子の車で来て待たせてるんだけど、Bちゃんの電話番号と家、知ってる?」という。

「知ってるけど、どうしたの? まぁ、とりあえずは入って入って」

 と、ブラ妻。

「さっき、Bちゃんから電話がかかってきて、どうやら具合が悪いらしいのよ。お姉さんは出張なんですって。途中からは、電話でも話ができないぐらい気分が悪くなったみたいで…死んじゃいそう。病院に連れて行ったほうが良いと思うのよ」

「…Bちゃんは昨日電話をかけてきて、ハチ娘が風邪なのを知ってて、それで気を使ってこっちに電話をかけなかったのね。ちょっと、かけてみる」

 Bちゃんというのはちょっと鬱っ気があって、気になることやイライラがダイレクトに「生体反応」しちゃう人。それでこの話までは平静を装っていた私でしたが、電話がつながった途端…。

「…もし、もし、…はぁ、はぁ、私…大丈夫…、はぁ、はぁ…」

 こここ、呼吸困難? ややや、やばいっすよ。

「アパートの入り口で待てて。すぐに車で行くから」

 Aおばさんの息子の運転する車を先導して、Bちゃんのアパートへ急行した。確かここだったよなぁ…と、ちょっと行き過ぎて止まる。ブラ妻が降りて入り口のところへ行くと、Bちゃんが待っていた…のだけれど、歩くのも大変みたい。Aおばさんの息子さんでは、車に乗せるのも大変みたいだ。チャイルドシートにハチ娘を残し、急いでBちゃんを担ぐ。わわわ。か、体が硬直してますですよ…。

 死後硬直もかくや、というぐらいガッチンゴッチンのBちゃんの足をぐいっと折り曲げ、Aおばさんの息子さんの車に乗せた。まぢ、やばいっすよBちゃん。次はAおばさんの息子が先導して、病院へ行く番。するする発進・するする停車を旨とする私は、遅れちゃいかんというわけで、とにかく急いで自分の車に向かう。…と。

「わわわ。何やってんだ?」

 車の中は、どうやってチャイルドシートを離れたのか、ハチ娘が運転席でハンドルを握り、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、大喜びであった…。やって来た私を見るなり、鼻水を垂らしながらウキキッと嬌声をあげる。ハンドルにしがみつくハチ娘を引き剥がし、後ろのチャイルドシートに投げ込んだ。

「あんた、風邪ひいてるんとちゃうんかいな…。大人しゅうせえよ…」

 すでに発進していたAおばさんの息子さんが、曲がり角で待っていてくれた。で、時々、遅れたりしながらも何とか病院に到着。車椅子で、救急病棟に運ばれるのを見送ってから、車をちょっとはなれたところに路上駐車。待合室に戻ってみると…。

「精神的なものだろうって、お医者さんが言ってた。Bちゃんに聞いたら、今日は日本人の協会の選挙だったそうで、それで投票にいったら、会費を払ってないって言われたそうよ。毎年払っていてそんなこと無いのにって、すごくナーバスになっていたみたい」

 と、Aおばさんが言う。ああ、そう言えば、今日は文協会長選だったなぁ…。谷さん、当選したかな。Bちゃんは、誰に投票する気だったんだろう…。それにしても、死にかけの患者を「帰宅OK」って、ちょっといい加減過ぎないだろうか…。せめて入院させて、一晩は様子を見たらどうなんだ?

 結局、午前1時半頃、Bちゃんを連れて帰途についた。家についた頃には、2時を回っていた。

 その朝、電話で目が覚めた。出張から帰ってきたBちゃんのお姉さんだった。

「昨夜はありがとうございました。お陰で、Bちゃんのこむら返りも、治ったみたいです」

「それは良かった…(けど、こむら返り?)」

 あの大騒ぎは、文協会長選とこむら返りが原因だったのかぁ…だはは。文協の歴史が始まって以来、初めて実施された会長選挙は、私にとっても忘れられない事件になった。

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