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特集 在外選挙権獲得運動の20年 (
2002年6月12日
サンパウロ市在住 美代賢志

 比例代表制のみではあるが、海外在住の日本人は選挙権を手にすることができた。これをバネに運動家の多くが、「次は小選挙区制の選挙権を」という夢に燃えている。そのような状況の中で、被選挙権に踏み込んで行動を起こしている人物がいる。

 高倉道男氏である。

 1940年10月23日生まれ。1976年8月12日、パラグアイに移住。同国の日本語新聞である日系ジャーナル社長を務め、1999年からは海外日系新聞協会会長に就任。国際社会の日本語メディア集団という視点と立場から、活動を続けている。

 その高倉氏は2001年、比例代表制での出馬を表明。現在も時期選挙に向けた活動を展開している。今回はその高倉氏に、出馬に至った考えや在外選挙の将来への期待を聞いた。


高倉道男氏 後ろは同氏務所

美代賢志 在外選挙獲得運動に関わるようになった契機とは、どのようなものだったのでしょうか。

高倉道男 在外有権者ネットワーク作りの気運が各国で盛り上がってきた十数年前、当時ニューヨーク在住の1留学生から「協力してほしい」とのFAXが入ったのがきっかけでした。当時、わたしはネットワークには加わりませんでしたが、それ以降側面から応援してきました。


美代 在外選挙に対する当時の認識といいますか、ネットワークに参加されなかった理由、また一方で当時、在外選挙に対して抱いた期待というものがあればお願いします。

高倉 関心はありましたが、当時仕事が忙しくて手が回らなかったのが実情です。それでも、在外選挙権が実現すれば多少、日本への発言権が強くなるだろうとの期待感はありました。


美代 立候補を決意されたのは、運動のどの時点だったのでしょうか。また、決断の決め手となったエピソードなどがありましたらお願いします。

高倉 海外日系新聞協会の会長として外務省や日本政府関係者、政治家などと接触する機会が多かったわけです。そうした活動を通じて、政府も政治家も一般国民も、全く海外日系社会に対する興味も関心もなく無知なことに杞憂を覚えました。

 そんな中、「どんな政党があり、どういう政策を掲げているのかさっぱり分からない」と一般読者の声に促されて一昨年の衆議院選挙、昨年の参議院選挙の開始前と、2度にわたり訪日し、各政党に政党広告を要請したのです。その結果、民主党と共産党、公明党が掲載してくれました。

 自民党には「費用対効果がない」と拒否されました。

 昨年5月末、各政党訪問を終えてパラグアイに帰国し、日本側の海外日系社会に対する無知と無関心さを痛感し、陳情行脚方式に限界を感じたのです。
 
 昔は海外日系社会に対する理解と愛情を持った国会議員もいましたが、今や世代交代し、1人として正しい認識を持つ議員はいないと言えます。
 
 今、日本人の目は、南米にある百数十万人の貴重な日本の財産といえる日系社会の価値さえ分からぬまま、官民上げて南米切り捨てからアジア、中国に向っています。

 この点は、北米であるロスの日系人からも指摘されました。

 政府に、国際社会や海外日系社会に対する戦略がないのです。

 例えば、外務省、JICA,国際交流基金、文部科学省等々がそれぞれ独自に日本語教育や日本文化広報、留学生、研修生派遣受け入れ等を縦割り行政の中で行っています。つまり日本政府としての総合的な哲学、戦略がないのです。

 弱肉強食、謀略うずまく国際社会の中でODAをいかに日本の国際戦略として活用するかも考えなければならないでしょう。

 そして日系社会をいかに活用するかも。

 さらに言えば、有能な日系2世、3世の人材をいかに活用するかという点ですね。


美代 日系社会といいますと、各国ごと、また世代ごとに捉え方が異なってくるかと思います。例えばブラジルの1世の間では、日系社会イコール日系コロニアとして論じられるのが一般的です。けれども、コロニアというのはいわゆる植民地、移住地です。地縁関係ですね。ところが2世になると、生まれ育ちとは関係のないところで生活の場が形成されてゆくわけです。そこで最近は、若い世代の間ではComunidade、英語で言うCommunityと使われる場合が一般化しています。Comunidadeとして見ますと、単に日本人の入植地に生まれたというよりも、「日本人の子孫」であるとか、もっと大きく解釈すれば「日本が好き」といった意識の問題が多分に絡んでくると思います。ブラジルでは、地域的つながりで運営されてきた1世社会の崩壊、求心力の低下がマイナスとして論じられることが一般的です。しかし私は、日本ファンを育てるという点では、悲観する必要はないのでははないかと思っています。つまり、日系人を核にした「日本ファン」というものが、地域を越えて形成される素地ができてきたということです。ところが、このファンを利用する、といって悪ければファンの気持ちを汲む部分、日本政府の動きが抜けているという気がしています。こうした個人的な興味を含めてお聞きしたいのですが、世界的な規模と視点から、日系社会、また日系子弟の人材をどのように活用するのか、あるいはできるのか。そのアイデアがございましたらお願いします。

高倉 この点に関して、「日本再生 真の国際化のために」と題した原稿を用意いたしました。


美代 出馬決断に至る段階で、悩まれたのはどのような点でしょうか。また、運動の開始後に始めて分かった出馬の問題点などがありますか。また、結果的に杞憂に終わった点がありましたら、あわせてお願いします。

高倉 選挙に必要な地盤、看板、かばんというベースが全くないことですね。

 さらに、高齢のハンデキャップ。世間一般でいえば60才といえば現役から引退する年令であることでしょうか。

 それから、日本人の島国根性や異物への拒否反応、移住者に対する無知、無理解、無関心、蔑視など、問題は多いですよ。


美代 現状では日本の選挙区から出馬するということで、「在外邦人の声を代表する」という点を前面に出しにくいかとも思います。その上で、日本在住者への提案や在外邦人への呼びかけ、選挙制度そのものへの改革案などありましたらお願いします。

高倉 まず、日本側に向けて。

 グローバルといいながら、日本人のメンタリティ、本質は江戸時代以降全く変わっていません。島国日本列島でカゴの鳥症候群に陥っており、島国で純粋培養された政治家たちは選挙区の特定の業界団体、選挙人達のために利益誘導を図ることばかりに尽力し、海外や国際問題などは票にならないから眼中にないのです。自分達が納めた税金がODAや国際機関、国際銀行などに拠出された莫大な資金がどのように使われているかにも、彼らは全く無関心です。この状況を、ともに変えてゆきましょう。

 在外邦人に向けて。

 傍目八目という言葉があるように一旦外国に出ると日本の事がよく見えるし日の丸を背負った自分を意識せざるを得ないことも多い。外から見た日本は素晴らしい所もたくさんあるし、また、「だめだな」と悲憤こう慨する点も多々あります。。ところがそれらの声を日本側に反映させようと思ってもパイプもないし、受け皿もない。この在外選挙権は自分達の意見を日本にぶっつける貴重な手段なのです。しかしながら、半人前の権利、比例区だけでは靴の上からかゆいところを掻いているようなものであり、また、投票するにも興味も関心も湧かないというのが現状でしょうか。登録手続きの簡素化、選挙区選挙権の実現を目指しましょう。海外選挙区の実施させませんか。


美代 在外邦人といいましても、移住者から駐在員まで多種多様であり、しかも居住地自体が世界各地に分散しております。その上であえて、在外邦人の総意(あるいは要求)というものを現段階で主張すると、どのようになるとお考えでしょうか。

高倉 在外選挙権の登録手続きの簡素化。選挙区選挙権の実現。海外選挙区の設立。


美代 在外選挙権獲得運動の今後を、どのようにお考えでしょうか。登録者を増やすにはやはり、海外選挙区を先行させ、その声が伝わるという点から動く必要があるのか、それとも登録者数を増やさなければ海外選挙区の見込みはないのでしょうか。この点をどのようにお考えでしょうか。

高倉 一昨年、鳴りもの入りで在外選挙権制度がスタートした時、各政党も色めきたったのですが、その後、実際の登録者数、投票者数が予想外に低迷したことから日本側の関心が急速にしぼんでしまいました。また、世界各国の有権者ネットワークも一生懸命に登録、投票を呼びかけたのですが、笛吹けど踊らず、で内外ともに白けています。今回、「人寄せパンダ・ドン・キホーテ」が登場したのだから今一度、在外選挙権の意義を噛みしめて登録者数をまず増やすことです。政治家たちも党利党略で「比例代表を廃止して選挙区選挙一本にすべし」という声が出ています。下手をするとせっかく勝ち取ったこの半人前の権利さえ失い兼ねません。

 先般、サンパウロで実施したような「登録者数増加キャンペーン」を世界中で実施することが急務です。「数は力なり」という言葉があるように実際の数字を見せることでしか日本側は動きません。


美代 政党ではなく、海外有権者ネットワークを発展させたような、インターネット等の通信手段を利用した在外邦人による仮想政策提案集団(あるいはフォーラムのようなも)の設立構想などはありますか。

高倉 それこそ、わたしが一番切望しているものです。一番非効率な選挙を余儀無くされる海外代表にとってはグローバルなインターネットネットワークの構築が急務です。世界各国に21世紀維新の同志が必要です。

 今回の選挙でわたしの当選は不可能だと思いますが、将来的には「海外日本人党」の設立も夢ではありません。そのためにもネットワークが不可欠です。例えば、今回は南米代表に世界中の有権者が投票する。次は北米代表を押す。その次はヨーロッパ代表という風に戦略的にやっていけば衆参両院で5、6名は当選出来ます。そうなれば政党助成金の交付も受けられます。日本の政治に海外日本人の声を入れることこそ弱肉強食の国際社会で日本がサバイバル出来る唯一の道です。

 一緒に新しい歴史を作っていきませんか?

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当ページに掲載された写真の著作権は、高倉道男氏に帰属します。
また高倉氏へのインタビューは、電子メールによって行いました。

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