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ここもブラジル

2004年12月15日

サンパウロ在住 美代賢志

 先日、誕生会に行ってきた。かつての?デパートの屋上遊園地的なパーティー用サロンを借りて行われるもので、そりゃもう、服装からして皆さん気合が入っていました。これ以外に日本と違うなぁ…と思ったのは、「○○ちゃんパパ」のような気持ち悪い呼び方をあまりしないこととかがある(そう呼ばれること自体は拒否したり否定したりはしないし、とりあえず、わが家はまぁ、ご近所付き合いで言えばブラ妻&ハチ娘の方が多いわけで、そう呼ばれることは多いわけだが)。ただ、大人は大人で楽しめるように配慮されていること(つまり子供に大人がついて行く、というニュアンスとは異なるということ。会場には遊具係の人たちがいて大人たちだけで話ができる環境なんだわ)が理由かも。

 このパーティーで、民事裁判所で働いていたという、今は定年退職されて悠悠自適な生活を送られているAさんというおばさんと、こもごもな話をすることになった。主に料理の話で、互いに「そうだねぇ、昆虫以外なら、だいたい大丈夫かも」なぁんて他愛もない、各国の移民料理の話しが中心だった。「そう言えば、中国人って蛇を食べるって言うじゃない」とAさんが言うので、「ブラジル人の食べるカメも、一歩ブラジルを出ればキワモノだよ」なんて話になった。するとAさんは、「ブラジルって移民でできた国だから、色々なものが持ち込まれて来たのは良いけれど、それに対する配慮はないわねぇ…。それぞれの文化がそれぞれに良いところがあるのに。日本みたいな決まった文化が無くて野放図になってる。だから、外国に行ってもブラジル人って横柄でしょ。属地主義の悪い点ね」と言う。まぁ、属人主義である日本人が外国、とくに途上国に行っても横柄でないかどうかには疑問が無くもないけれど、意図するところはだいたい分かる。

「だいたいねぇ、ブラジル人はふたこと目には、ここはブラジルだって言うじゃない。お粗末な移民ばっかりだからこうなるのよ。もともとの文化が伝わってないのよ」

 とは、Aさんの主張である。「ここはブラジル」と発言する人の精神構造はすでに書いたのだけど、まぁ、これと同じ意見といえるかも。ただ、Aさんの言わんとするところも、属地主義より属人主義ではなく、やはり文化的な根っこを持たなきゃいけないということかな。自分のことだけじゃなく、そうした根っこを生やすように子供に肥料を与える立場の私としては、他人事じゃぁない。と、まぁ、子供たちの集まる誕生会で、そんな冷や汗ものの話題になったりしたのだった。

 「ここはブラジル」と言う人は、この時点で思考が停止してしまっていることが多いということが、そもそもの問題点だと思う。あるいは、変化や進化することを拒否する立場といえるのか。私の身近なところで、例を挙げてみると…。

 プロの翻訳人で、国際機関などの略語表記にブラジルの表記を用いる方がいる。「ここはブラジル。ポルトガル語の略号や名称のほうが、駐在員など日本人の役立つはず」というのが理由である。もちろん、本当の理由は、日本でどのように呼ばれているのか知らないし、調べるのが面倒だから、というのは秘密。それが証拠に、有名な略号は英語表記。いくらお客さんが進出企業とは言え、これでは受け取った側がいちいちチェックしないと、日本の本社に報告書を提出できない。この事務所では、カタカナ語の表記でも、行き当たりばったり。「テレビを見ていてごらん、そう発音しているから」と言うのが理由で、別に文法的裏付けがあるわけでも、何らかの規準を設けているわけでもない。だからその度、右往左往してスタッフの手間が増える。こうした弊害は枚挙に暇が無い。最近ぶったまげたのは、「年度」の表記。ブラジルでは、「年度」というのは1月1日から12月31日のこと。というわけで、基本的には「年=年度」である。といっても、さすがにそれを「年度」と翻訳すると、混乱すると思う。つまり、ブラジルの「2004年の年間データ」を、この事務所では「2004年度のデータ」と表記するわけ。日本の会計年度と勘違いされたらどうする気なのか…。気になったので訊いてみると、「俺はブラジルで翻訳している。ここはブラジルだよ。ブラジルの会計年度を前提に訳すのが当然」という返答だった。「単純に、年にすれば混乱しないと思いますが…」と、さらに突っ込むと、「細かいことは、気にしちゃいけない」。

 それでこの方は、「翻訳業務を行ってるウチの会社は、パソコンの自動翻訳とかが台頭してきたために、あと5年ぐらいしか存続できない」と、経営を引き継いで大改革して(ということにしておきましょう)2年目の自社を分析、顧客の減少と世の移り変わりを嘆いておられる。

 最近でこそ、アカデミックな場における「ここはブラジル」的な同化論は劣勢のようだが、市井ではまだまだ一般的である。こうした主張は結果的に、企業なり、その国の国力なりを弱めることにつながりかねない。もちろんこれは、ブラジルに限ったことでは無いように思う。

 「ここは日本…」。ついつい、そう言っちゃう人は、要注意。

誕生会は、こんな感じなのだ

 

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