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イパネマの娘

2003年2月3日

作 ヴィニシウス・デ・モラエス
訳 美代賢志 (サンパウロ在住)

 実は未だに、レコードやCDなどでオリジナルを聴いたことがありません。私の友人たちが口ずさんでくれたのを聞いただけです。

「え、イパネマの娘を聞いたことがないの! じゃ、歌ってあげるよ」

 そして皆が皆、なぜか最初の「Olha que coisa mais linda...」だけしか歌ってくれません。後はムニャムニャ5秒ぐらい言って終わり。歌うならすべて歌い切れ!

 そんな私でも最近、この曲に興味がでてきました。

 理由は簡単。とあることで「女装(といっても女性の水着をもちろん上だけ、そして髪飾りと口紅)」をすることになりまして、その姿のあまりの美しさにブラ妻が、「イパネマの娘だ!」と叫んだのがきっかけです(涙)。一体、どのような歌詞なのだろうか??

 そして今回、初めてポルトガル語の歌詞を読んだということで、訳してみました。

 この歌詞の訳には、2通りに解釈できる部分がありますので、どちらでも好きな方を選んでください。

1) 作詞された状況がそのまま歌詞に織り込まれている。あのレストランの雰囲気が好き。

2) イパネマといえばやっぱり海! 海辺の雑踏よりも海岸線をイメージする。

 まぁ確かに歌詞の通り、女装した私が通り過ぎる時、Mundo(世界、転じて人々の意味もあります)は、微笑むどころか大笑いしておりました。幸せそうでした。この歌は、こんな情景を歌っていたのですネ(…違うよ!)。

 ちなみに、歌い出しの「Olha」は「ごらんよ」と訳されることが多いようですが、レストランの窓辺で独りぼっちで飲んでいる内気な男が、誰に向かって「ごらんよ」などと言うのでしょうか? この場合は、(英語のLook ! 同様)「おぉ!」とか、「おわっ!」とか、感嘆詞的な用法が適切でしょう。

 原文は、1番の解釈なら、何気なく眺めた窓の外に、若い女性、それも飛び切り美しい女性を見つけ、そして声をかけることすらできずに彼女が通り過ぎてゆくのを眺める主人公の心の動き、2番なら、海辺にたたずむ主人公の横を女性が通り過ぎてゆく光景と心の動きが語られています。つまり違いは、「Caminho do mar」の解釈だけ。通常これは、2番のように海沿いにある歩道を意味します。

 それにしても…今時のブラジル人男性なら、口笛吹いたり「カワイコちゃん!」などと声をかけそうですが(笑)。

 さて、この曲の聴き所は、(私の想像によれば)何と言っても「ぼそぼそ調で淡々とした語り口」的な出だしから、サビ部分で「アァー」なんて(「いい日旅立ち」のサビ風に)切なくも心臓を高鳴らせて歌いあげるところ。そして彼女が通り過ぎ、心臓のバクバクが収まるにつれて曲も静かに幕を閉じる。この序破急ともいえる(いえねぇよ!)メロディーの流れ、そして心臓の鼓動にあわせるかのような抑揚とテンポを持った美しい歌詞、この絡みが最高なのです。聴いたことないのに何で知ってるかって? それぐらいは歌詞を見ればわかろうというもの! でしょ! 違うのかな?(エェー、この段落はすべて妄想です。トン・ジョビンのファンの方、ごめんなさい)

 そして…今までこの曲を聴いたことのない本当の理由は、「イパネマの娘は、何てレコードを聴けばいいの?」なんて、恥ずかしくて訊けないからです。いや、ほんと。訊けないよね。

 でも、「聴いたことがない」と言うほうが、もっと恥ずかしい気もする。

 誰か、私のために最後まで歌ってくれ!

※ 原文中、「Caminho do mar」(この場合は、海辺を歩く、という意味です)に違和感を感じ([翻訳を楽しむ心]参照)、「A caminho do mar」(海へ向かって)の省略ではないかと考えておりました。この件に関して、WillieさんとHiroquinhoさんから、貴重なご意見をいただきました。ありがとうございました。

翻訳を楽しむ心][この歌を聴け]もどうぞ。


おや、なんとも美しい人

本当に愛くるしい

その女性が…少女がこちらに歩いてくる

甘美なステップで海にむかって

イパネマの太陽を浴び

黄金色に日焼けしている彼女の体


彼女の歩調は

ポエムの響きよりもリズミカル

これまでここを通ったどの女性より

最高に美しい娘


あぁ、どうして私はこうも独りぼっちなのか

あぁ、どうしてすべてがこんなに悲しく映るのか

あぁ、こんなに美しいものが存在するなんて

しかも私ひとりのものじゃない

そして彼女も独りで過ぎて行く


ああ、もし彼女が…

彼女が通り過ぎる時

人々が微笑み

幸福で満たされることを知っていたなら

そして愛のために

世界がより美しくなることを知っていたなら

愛のために  

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おや、なんとも美しい人

本当に愛くるしい

その女性が…少女がこちらに歩いてくる

甘美なステップで海辺を

イパネマの太陽を浴び

黄金色に日焼けしている彼女の体


彼女の歩調は

ポエムの響きよりもリズミカル

これまでここを通ったどの女性より

最高に美しい娘


あぁ、どうして私はこうも独りぼっちなのか

あぁ、どうしてすべてがこんなに悲しく映るのか

あぁ、こんなに美しいものが存在するなんて

しかも私ひとりのものじゃない

そして彼女も独りで過ぎて行く


ああ、もし彼女が…

彼女が通り過ぎる時

人々が微笑み

幸福で満たされることを知っていたなら

そして愛のために

世界がより美しくなることを知っていたなら

愛のために  

戻る


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